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新潟地方裁判所 昭和60年(ワ)71号 判決

原告

新潟市個人タクシー事業協同組合

右代表者代表理事

坂井武夫

右訴訟代理人弁護士

髙野泰夫

昭和六〇年(ワ)第六六号事件被告

大小治徹策

昭和六〇年(ワ)第六七号事件被告

近藤末吉

昭和六〇年(ワ)第六八号事件被告

佐野勇

昭和六〇年(ワ)第六九号事件被告

坂井徳也

昭和六〇年(ワ)第七〇号事件被告

近藤福治

昭和六〇年(ワ)第七一号事件被告

青木寅之丞

昭和六〇年(ワ)第七二号事件被告

倉田平八郎

昭和六〇年(ワ)第七三号事件被告

橘五一

昭和六〇年(ワ)第七四号事件被告

阿部明雄

右被告九名訴訟代理人弁護士

中村洋二郎

右同

鈴木俊

主文

一  原告の被告近藤末吉、同近藤福治、同青木寅之丞、同橘五一、同阿部明雄に対する主位的請求は、いずれも棄却する。

二  被告大小治徹策、同近藤末吉、同近藤福治、同青木寅之丞、同倉田平八郎、同橘五一、同阿部明雄は、各自、別紙営業表示目録(一)記載と同一の個人タクシー用屋上灯を、被告佐野勇、同坂井徳也は、各自、別紙営業表示目録(二)記載と同一の個人タクシー用表示灯を、いずれも使用してはならない。

三  被告大小治徹策、同近藤末吉、同近藤福治、同青木寅之丞、同倉田平八郎、同橘五一、同阿部明雄らは原告に対し、各自、別紙営業表示目録(一)記載と同一の個人タクシー用屋上灯を取りはずせ。

四  被告佐野勇、同坂井徳也らは、原告に対し、各自別紙営業表示目録(二)記載と同一の個人タクシー用屋上灯を取りはずせ。

五  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一  当事者双方の求める裁判

一  請求の趣旨

(一)  被告大小治徹策、同近藤末吉、同近藤福治、同青木寅之丞、同倉田平八郎、同橘五一、同阿部明雄らは、各自別紙営業表示目録(一)記載と同一の個人タクシー用屋上灯を取りはずせ。

(二)  被告佐野勇、同坂井徳也は、各自別紙営業表示目録(二)記載と同一の個人タクシー用屋上灯を取りはずせ。

(三)  被告らは各自右屋上灯を使用してはならない。

(四)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(五)  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者双方の主張

一  請求の原因

(一)(1)  原告新潟市個人タクシー事業協同組合(以下「原告組合」という)は、前身である新潟市個人タクシー協会を発展的に解消して、昭和四四年一二月一七日に中小企業協同組合法に基づく設立認可を受け、昭和四五年一月八日設立登記された事業協同組合である。

(2) 原告組合は、個人タクシーの組合としては、最も歴史が長く、その構成員も昭和五九年九月三〇日現在で、二七三名を数えている。そして、原告組合の前身である新潟市個人タクシー協会(以下「個人タクシー協会」という)は、昭和四四年三月に個人タクシーの全国組織である全国個人タクシー連合会(以下「全個連」という)へ加入したが、原告組合は、昭和四五年一月八日に設立登記されて事業協同組合となった後も、全個連へ引き続き加盟して、全個連の行う共済事業等に参加している。

(3) 原告組合は、独自に自動車、燃料、タイヤ、その他の自動車部品の販売斡旋、自動車の整備等、個人タクシーの営業に関する事業、観光、教養指導、福利厚生、運行管理、保険代行等に関する事業を行い、更に新潟市内の金融機関と契約して、原告組合独自のタクシーチケットを発行し、また、各カード会社、全個連、新潟市のハイヤー・タクシーセンターでそれぞれ発行しているタクシーチケットの換金の取扱いもしている。更に最近では、無線事業部を作り、無線センターを中心として、無線によるタクシーの呼出しを行っている。

(二)  原告組合は、別紙営業表示目録(一)記載と同一の全個連専用灯(通称「でんでん虫マーク」で基本地は黄色で、そこに「個人」と表示されている。以下「本件(一)の表示灯」という)を原告組合の組合員全員が、原告組合の一員であることを示すための営業表示として設置するように、原告組合の定款および運営規約(以下「運営規約」という)に規定を設けている。

すなわち、

(1) (原告組合定款第六条)

『この定款で定めるもののほか、必要な事項は、規約で定める。』

(2) (原告組合の運営規約第一条)

『新潟市個人タクシー事業協同組合(以下「組合」という。)の運営は定款で定めるもののほか、この規約の定めるところによる。』

(3) (原告組合の運営規約第八条)

『本組合員は、組合員たるを証する一切の表示をしなければならない。本組合を脱退したときは、その時限をもって取外し、又は返還すべきものは直ちに返還しなければならない。』

と規定して、原告組合員は、本件(一)の表示灯を自己の営業用の車に設置することを義務付けている。

(三)(1)  原告組合の組合員は、全員各自の自動車に本件(一)の表示灯を設置して、毎日の営業活動を行っている。従って、原告組合の事業区域内では、本件表示を設置してあるタクシーは、その運転者が原告組合の組合員であるということ、原告組合の組合員のタクシーは、有名なクレジット・カード会社のタクシーチケットの利用ができること、新潟市内で発行されているハイヤー・タクシー共通乗車券、全個連のチケット、原告組合が独自に発行しているチケット等、少なくともタクシーチケットの類はほとんど利用・使用が可能であることを示して、それが周知されているということができる。

(2) 原告組合が、その構成員である組合員に設置を義務付けている本件(一)の表示は、昭和四五年一月の原告組合の設立当時から、原告組合の標章であったものであり、個々の組合員が自己の営業用のタクシーの屋上灯として設置して、日夜営業をしていることから、既に営業表示の周知性は確立していたものである。

仮にそうでないとしても、原告組合が昭和四七年二月一八日ころ、被告倉田平八郎(以下「被告倉田」という)を除名処分に付し、それにより全個連から昭和四八年六月一六日、右被告に対する本件(一)の表示灯と同一の表示灯を同人が設置していることに対して、その撤去請求をしたことが、新潟日報紙上に報道され、その際原告組合の本件(一)の表示灯が大きく掲載されるにおよび、少なくとも、その当時において、原告組合の本件(一)の表示灯は、社会的に広く他人に認識されたものということができる。

(3) 原告組合の組合員以外の者が、自己の運転する車に本件(一)の表示灯と同一の表示灯または類似の表示灯を設置して、営業活動を行うことは、それは原告組合の組合員の営業上の活動との混同を生ぜしめる行為であり、それによって、原告組合は、営業上の利益を害されまたは害されるおそれのある行為であるといわなければならない。

従って、かかる場合には不正競争防止法一条二号により、原告組合は、本件(一)の表示灯または類似の表示灯を設置している者に対して、その行為の差し止めを請求することができる。

(四)(1)  被告大小治徹策(以下「被告大小治」という)は、昭和四八年四月三〇日に原告組合に対し、原告組合からの脱退届を提出し、その後は、原告組合とは別の組織で、新潟市東堀通五番町四四一番地に事務所を構える訴外新潟中央個人タクシー協同組合(以下「訴外組合」という)に加入し、現在も本件(一)の表示灯と全く同一の表示灯を自己の営業用の車に設置して営業を継続している。

(2) 被告近藤末吉(以下「被告近藤」という)は、原告組合の組合員であったが、昭和五五年一二月三一日に原告組合を脱退した。そして、右脱退後も、本件(一)の表示灯と同一の表示灯を自己の営業用の車に設置して、営業を継続している。

(3) 被告佐野勇(以下「被告佐野」という)は、原告組合の組合員であったが、昭和五三年一二月三一日に、原告組合を脱退した。

そして、右脱退後も、本件(一)の表示灯と同一の表示灯と類似の別紙営業表示目録(二)記載の表示灯(以下「本件(二)の表示灯」という)を自己の営業用の車に設置して、営業を継続している。

(4) 被告坂井徳也(以下「被告坂井」という)は、原告組合の組合員であったが、昭和五五年一二月三日、原告組合を脱退した。

そして、右脱退後も、本件(一)の表示灯と同一の表示灯を自己の営業用の車に設置していたが、その後も本件(一)の表示灯と類似の本件(二)の表示灯を自己の営業用の車に設置して営業を継続している。

(5) 被告近藤福治は、原告組合の組合員であったが、昭和五一年一二月三一日、原告組合を脱退した。

そして、右脱退後も本件(一)の表示灯と同一の表示灯を自己の営業用の車に設置して、営業を継続している。

(6) 被告青木寅之丞(以下「被告青木」という)は、原告組合の組合員であったが、昭和五一年一二月三一日、原告組合を脱退した。

そして、右脱退後も本件(一)の表示灯と同一の表示灯を自己の営業用の車に設置して、営業を継続している。

(7) 被告倉田平八郎(以下「被告倉田」という)は、原告組合の組合員であったが、昭和四七年二月一八日原告組合の除名処分により除名され、その後は原告組合と別の訴外組合に加入し、現在も本件(一)の表示灯と全く同一の表示灯を自己の営業用の車に設置して営業を継続している。

(8) 被告橘五一(以下「被告橘」という)は、原告組合の組合員であったが、昭和五二年一二月三一日、原告組合を脱退した。

そして、右脱退後も、本件(一)の表示灯と同一の表示灯を自己の営業用の車に設置して営業を継続している。

(9) 被告阿部明雄(以下「被告阿部」という)は原告組合の組合員であったが、昭和五四年一二月三一日、原告組合を脱退した。

そして、右脱退後も、本件(一)の表示灯と同一の表示灯を自己の営業用の車に設置し、営業を継続している。

(五)  よって原告は被告らに対して次の請求をする。

(1) 主位的に被告近藤、同近藤福治、同青木、同橘、同阿部に対して、同人らが原告組合を脱退したことにより、原告組合の運営規約第八条に基づき、右被告らが各営業車に設置してある表示灯が、右規約の「組合員たるを証する表示」として、各被告の本件(一)の表示灯と同一の表示灯の使用の差し止めとその取外しを求め、

(2) 予備的に

(イ) 原告組合は、被告佐野、同坂井を除くその余の各被告らに対し、右各被告らが本件(一)の表示灯と同一の表示灯の使用する行為は、不正競争防止法一条一項二号に規定する「他人の営業たることを示す表示と同一のものを使用して他人の営業上の施設又は活動と混同を生ぜしむる行為」であるとして、同法による右被告らの表示灯の使用の差し止めとその取り外しを求め、

(ロ) 被告佐野、同坂井に対しては、不正競争防止法一条一項二号により、右被告らが現に使用している本件(二)の表示灯の表示灯につき、本件(一)の表示灯と類似であることから、その使用の差し止めとその取り外しを求める

ものである。

二  請求の原因事実に対する認否

(一)(1)  請求の原因(一)(1)の事実は認める。

(2) 同(一)(2)の事実は不知。

(3) 同(一)(3)の事実は不知。

(二)  同(二)の事実中、原告組合の定款および運営規約にその主張するような規定がある事実は認め、その余の事実は否認する。

(三)(1)  同(三)の事実中、本件(一)の表示を設置したタクシーは、原告組合の組合員であること、本件(一)の表示を設置してあるタクシーは、ほとんどのタクシー・チケットが使用可能であること、そして、そのことは原告組合の事業区域内で周知されている事実は否認し、その余の事実は争う。

(2) 同(三)(2)の事実は争う。

(3) 同(三)(3)の事実は争う。

(四)(1)  同(四)(1)の事実は認める。

(2) 同(四)(2)の事実は認める。

(3) 同(四)(3)の事実は認める。

(4) 同(四)(4)の事実は認める。

(5) 同(四)(5)の事実は認める。

(6) 同(四)(6)の事実は認める。

(7) 同(四)(7)の事実中、被告倉田が原告組合を除名された事実は否認し、その余の事実は認める。

原告組合が被告倉田に対してなした除名決議は、あらかじめの議題通知のないことを、しかも出席者の三分の二に満たない賛成しかなかったにもかかわらず、強行されたものであり、その手続には法令、定款に違反した無効な決議である。

(8) 同(四)(8)の事実は認める。

(9) 同(四)(9)の事実は認める。

三  抗弁および被告らの主張

(一)  タクシーの屋上灯(非常灯)設置に至る経過

(1) もともと、タクシーの屋上灯は、昭和三八年ころ、タクシー強盗事件が頻発したのを受けて、陸運事務所の行政指導により、防犯を主たる目的とする非常灯として設置されるようになった。そして、現在でも非常の場合に赤色の点滅信号がつけられるようになっている。これらの屋上灯は、被告らの一部の者は、昭和四四年ころから設置して使用してきたものであり、そのような事情からすると、原告組合といえども、その組合員に対してその使用を強制できるものではなく、原告組合の組合員は、現実には、本件(一)の表示灯以外の別の屋上灯を使用している者がいたほどである。

(2) 昭和四八年四月、被告らは、原告組合とは別に訴外組合を結成したが、その際皆で従来どおりの屋上灯(本件(一)の表示灯)を使用することとしたが、勿論これにも強制力なく、現に被告坂井および同佐野は本件(一)の表示灯を使用していない。個人個人の趣味の問題でもあり、不正競争などの考えは毫もない。

被告等が原告組合の要求を拒否するのは、原告組合にはそのように要求する権利がそもそもないし、被告等の所属する訴外組合に対する理不尽な内部干渉であるのみならず、被告等が長年の間使用してきた屋上灯であって愛着もあるうえ、原告組合の不当な締めつけ策に対し闘ってくれるようにとの原告組合員からの訴えもある。

(3) 被告倉田と同大小治は、原告組合の成立以前の昭和四〇年四月ごろから一六年間継続して本件(一)の表示灯と同じ表示灯を各自その車に設置して使用してきている。従って、それを今更取り外せとの原告組合の主張は全く理由がないものである。

(二)  原告組合主張の要件の欠缺(不正競争防止法の主張について)

(1) 本件(一)および(二)の表示灯は不正競争防止法一条一項二号の「広く認識せらるる他人」の表示ではない。

同法にいう「他人」とは、「取引者または需要者が、名称まで知っている営業主体である必要はない。しかし、商品表示の出所として、匿名であるにせよ、取引者または需要者が、その存在を認めている特定の営業者でなければならない。したがって、取引者・需要者が匿名商品表示の付された舶来品の出所として、その意識のなかに外国のメーカーを認識していても、わが国でこれを輸入販売する特定の営業者と結合するまでに至っていない場合には、外国のメーカーのみが『他人』となる」とする大阪地裁昭和四五年二月二七日判決(パーカー事件)がある程である。

しかるに、本件で問題とされている屋上灯について、原告組合は「取引者または需要者が、その存在を認めている特定の営業者」ではない。なぜなら、タクシーの乗客は、個人タクシーの営業主体はそのタクシーの運転手を営業者と認識しており、また実際にもそうであるから、原告組合を本件(一)および(二)の表示灯についての営業者とは認識していない。そもそも一般の乗客は、原告組合の存在すら認識していない。ましてや、新潟地区の三つの個人タクシー協同組合があることもその区別もわかるはずもない。元来、原告組合は協同組合であり、組合員全般の共済活動をやっているにすぎず、タクシー営業を、原告組合としてなしているものではない。したがって、一般乗客が個人タクシー営業の全体を原告組合であるなどと認識するはずもないし、論理的にもあり得ない。乗客はタクシーにのる場合、ある会社のタクシーか個人タクシーかの意識しかなく、かつ個人タクシーの場合は運転手個人が営業者と認識しているのみである。

原告組合も、組合員に対しタクシーの窓に「組合員之証」というステッカーを張らせているが、これは本件(一)の表示灯では原告組合の事業主体であることを識別できないことをしめしている。

また原告組合の定款・運営規約においても、本件(一)の表示灯が原告組合の営業を示す旨の規定はどこにもない。

以上いずれにしても、本件(一)の表示灯に関し、原告組合について、不正競争防止法のいう「他人」とすることはできず、(そもそも営業主体でないし、仮に営業主体としても「取引者または需要者が、その存在を認めている特定の営業者」ではない)、ましてや、その「他人性(特定の営業主体性)」は、一般人によって「広く認識」されてはいない。

(2) 同法一条一項二号のいう「営業の混同」もない。

前述のように、原告組合が本件(一)の表示灯を使用して営業したこともないし、一般乗客がタクシーに乗る時に原告組合の営業するタクシーであると認識して乗るものでもないから、営業の混同等ありえない。乗客は、ただ、ある会社のタクシーか個人タクシーかの区別しかしていないのであって、原告組合のタクシーか、被告等の所属する組合のタクシーか、はたまた特定の個人のタクシーによって区別して乗車するものでもない。いかなる意味でも「営業の混同」はありえない。

元来、タクシー営業は、ハイヤーとも異なり、営業主体によって乗車するのではなく、駅構内においては順番に、街路においてはたまたま通りかかった空車のタクシーを呼ぶのであって、本件(一)の表示灯をみて呼ぶのではない。その意味でも「営業の混同」は存在しない。

(3) 同法一条一項頭書のいう「之に因りて営業上の利益を害せられる」こともない。

この点についても右(2)において述べたことがそのままあてはまる。

即ち、乗客は、原告組合のタクシーを選別して乗車するのではないし、また、タクシー営業の性格上通りかかったタクシーを止めて乗車するという「利便性」がその特性をなしており、被告が仮に権限なくして本件屋上灯を使用していると仮定しても、そのことによって(「之に因りて」)、原告組合に対し、なんら、「営業上の利益」を害することにはならない。

(三)  不正競争防止法二条二号によると、「表示」が「広く認識せらるる以前よりこれと同一または類似の表示を善意に使用する者」には同法一条等の適用は除外される。そして被告倉田、同大小治、同近藤、同佐野はいずれも昭和四四年より一六年間、被告近藤福治、同坂井は昭和四五年より一五年間、被告青木は昭和四六年より一四年間、被告橘は昭和四七年より一三年間、同阿部は昭和五四年より六年間、それぞれ本件屋上灯を平和的に善意に使用してきた。いまでこそ本件屋上灯は少しずつ知れてきているが、昭和四四年頃は、初めて使用するタクシーが出始めたばかりであり、ごく一部の者しか使わず、当時到底、市民の間に「広く認識せらるる」表示にはなっていない。そのことはその後も被告らが原告組合を脱退後一〇年前後続いていたものである。したがって、仮に不正競争防止法の問題になりうるとしても被告らには本件屋上灯につき同法第一条等は適用されないものであり、原告の請求は、この点からも失当である。

(四)  被告らは、本件(一)の表示灯と同種の表示灯を設置して営業を継続している者であり、原告組合の主張する本件(一)の表示灯は、原告組合の運営規約で定める「組合員たるを証する表示」に該当しないし、「組合員之証」とされているステッカーは、被告らが原告組合を脱退する際にすでに返還ずみであり(その際原告組合は、本件(一)の表示灯については返還を求めなかったことからすると、本件(一)の表示灯は、原告組合の運営規約に規定する「組合員たるを証する表示」に該当しないことを原告組合としても容認していたといえる)、仮に本件(一)の表示灯が、原告組合の運営規約に規定する「組合員たるを証する表示」に該当するとしても、その請求には、なんらの必要性はなく、その主張は、まさに権利の濫用というべきであり、許されないというべきである。

四  抗弁事実および被告らの主張事実に対する認否ならびに原告組合の主張

(一)(1)  被告らの主張(一)(1)の事実は争う。

(2) 同(一)(2)の事実は争う。

(3) 同(一)(3)の事実は争う。

(4) 被告らには、サービスマークに対する根本的な理解が欠如しているものというべきである。

本件表示灯は、原告組合のシンボルであり、組合員の誇りである。

この営業表示を全く関係ない被告らが使用して営業していること自体、原告組合に対する挑戦である。

原告組合は、各種の事業を営み、そこから生まれる有形無形の利益を組合員に還元しているものであるが、原告組合の事業が成功しているからこそ、原告組合に対する社会の信頼は高いのであり、引いては組合員に対する信頼が高くなり、組合員各自の利益が向上するものである。

被告らは、原告組合が長い間の努力によって培ってきた社会的な信頼を、シンボルを不当に使用するということで横取りもしくは不正に利用しているのであって、正しくサービスマークに対する保護は、ここから出発しなければならないのである。

(二)(1)  同(二)(1)の事実は争う。

被告主張の判例は、不正競争防止法第一条一項に関するものであり、その事例としてもサービスマークの保護を争点とする本件には妥当せず、先例としての意味はない。

むしろ、「他人」とは、営業主体の事であり、単一の営業主体に限らないというところまで拡げて解釈しているのが現在の定説である。

すなわち、『「他人」は、広く経済上その収支計算の上に立って事業を行うもの』であれば足り、法人格を必要とするものではなく、非営利事業も含むとされている。

また、右の「他人」とは、『取引者又は事業者が、名称まで知っている営業主体である必要はなく、他から区別される特定の営業主体であれば足りる』とされている。

例えば、フランチャイズシステムにおけるフランチャイジーとフランチャイザーの関係のように、フランチャイジーだけでもフランチャイザーのみでも、はたまたその両方を全体として一個の結合として考えた場合でも、いずれも本条の「他人」として、認められている。

すなわち、原告組合のように、旅客運送行為自体は組合の行為として行なわないとしても、旅客運送行為を行っている個々の組合員が、原告組合を通じて団体を形成しているのであり、本件営業表示を、個々の組合員全体としての営業表示として考える事も充分に可能である。

個々の組合員がなすべき行為の一部を原告組合が代りに行っているのであり、原告組合が取引者、需要者から特定の営業者として認められていることは、原告組合のチケット取扱高、契約企業の数等から問題なく認められる。

また、サービスマークの保護については、現在の法制上、充分とはいえず、不正競争防止法第一条二項の趣旨を拡げて解釈しているのが実務の大勢である。

(2) 同(二)(2)の事実は争う。

原告組合と被告らとの営業表示は、全く同一、もしくは形は多少の違いはあってもデザインは同一であり、しかも、営業免許地域も全く同一である。

このことだけで、すでに混同の事実は証明されているといってよい。

しかも、『混同』は、現実に混同が発生している場合だけでなく、そのおそれがあれば足りるとされている。特に、「原告組合と被告がなんらかの関係がある」というふうに誤認されるおそれがあれば、『混同』と認定している(いわゆる、広義の「混同」)のが最近の判例の傾向であり(最高裁昭和五八年一〇月七日日本ウーマンパワー株式会社事件参照)、ここでも不正競争防止法第一条二項の趣旨を拡げて解釈しているのが実務の大勢である。

(3) 同(二)(3)の事実は争う。

営業上の利益とは、営業を行ううえで事業者が受ける事実上の利益であり、収支計算上ないし会計上の利益に限らない。信用、名声、得意先の喪失・減少、事務の増加、なども含まれる。

また、営業上の利益は、現実に侵害される必要はなく、『おそれ』があれば足りる。

本件は、原告組合傘下の個人タクシーが被告らによるチケットのトラブル(被告らが原告組合と同一の防犯灯をつけていながらチケットをうけとらなかったため、新潟市の市役所の職員から苦情が出、市役所の秘書課長から強く善処を求められた)から、チケットを使う市役所職員の中に「個人タクシーはチケットを使えるのと使えないのとあり、面倒臭い」という噂がでて、市役所の回りで客待ちがしにくくなったことがある。

とにかく、営業上の利益を広く考えるのが定説であり、且つ、利益の侵害発生について相当の可能性で足りるのであり、本件はまさに営業上の利益を害されているし、今後も害される相当の可能性がある、というべきである。

(三)  同(三)の事実は争う。

(四)  同(四)の事実は争う。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一(一)  請求の原因(一)(1)の事実は、当事者間に争いがない。

(二)  〈証拠〉によると、請求の原因(一)(2)(3)の各事実を認めることができる。

二請求の原因(二)の事実中、原告組合が定款を有し、更に運営規約を設定していること、そして、右運営規約には、「本組合員は、組合員たるを証する一切の表示をしなければならない。本組合を脱退したときは、その時限をもって取外し、又は返還すべきものは直ちに返還しなければならない」(運営規約第八条)との規定が設けられていることは被告らの認めるところである。

そして、原告組合代表者坂井武夫の尋問の結果によると、原告組合は、昭和四五年一月八日に、中小企業協同組合法に基づき設立された事業協同組合であり、右設立以前は個人タクシー協会として活動していたものであるが、昭和四四年三月一三日の右タクシー協会の定例総会において、個人タクシーの全国的組織である全個連にタクシー協会として加入することを決定し、その後右個人タクシー協会を発展的に解消して原告組合の設立となったこと、更に個人タクシー協会として、全個連に加入するに際して、当時全個連の代表者からは、全国組織としての全個連の各構成員である個人のタクシー車輛の屋上に、本件(一)の表示灯と同種の表示灯を設置するよう告げられ、個人タクシー協会の構成員であった被告らも含めて、全構成員は、本件(一)の表示灯(ただし、被告佐野、同坂井は、本件(二)の表示灯と同種の表示灯)と同種の表示灯を、各自の車輛の屋上に設置して営業を継続してきたこと、そして、右の事情から、本件(一)および(二)の表示灯は、原告組合の設立とともに、各構成員につき、設置を義務付けられる(他に「組合員の証」と印刷されたステッカーも貼付することになっている)こととなり、原告組合の定款および運営規約の「組合員たるを証する一切の表示」規定は、その趣旨を規定したものであり、原告組合の構成員は、各自本件(一)の表示灯と同種の表示灯を自己の車輛屋上に設置し、その他ステッカーを貼付して、個人タクシーとしての営業を続けている事実を認めることができる。

三請求の原因(四)(1)ないし(6)、(8)(9)の各事実および同(四)(7)の事実中、被告佐野、同坂井が、本件(二)の表示灯と同種の表示灯をそれぞれのタクシー車の屋上に設置していること、そして、右被告佐野、同坂井を除くその余の各被告らは、現在も、本件(一)の表示灯と全く同じ型の表示灯を各自の営業用の車輛の屋上に設置して、個人タクシーとして営業を続けている事実は、いずれも当事者間に争いがない。

四そこでまず原告組合と被告倉田との関係において、被告倉田は、原告組合を除名されたことの効力について争っているので、その点につき検討する。

(一)  〈証拠〉によると、次の事実を認めることができる。

(1)  被告倉田は、大正八年五月生まれで、昭和二〇年ころ、自動車の運転免許を取得し、昭和四〇年四月に、個人タクシーの認可を受け、原告組合の前身である個人タクシー協会に入会し、三年間役員を務め、更に昭和四五年一月八日設立した原告組合の構成員として昭和四三年九月から同四四年九月まで、会計担当の役職にあった者であること、

(2)  被告倉田は、原告組合の運営についていつも少数派であり、原告組合の運営上銀行融資の件、全個連への加入の件、昭和四五年二月開催の総会における組合費値上げの件等(その他、原告組合の設立に関しての意見、原告組合設立の際の定款の内容に関する件)について、多数の構成員とは意見を異にしており、特に組合費の値上げについては、被告倉田は、強硬に反対し、昭和四五年四月からは未納となっていること、それが原因となって、昭和四七年二月の定例総会において、被告倉田を除名にする決議がなされたこと、

(3)  原告組合は、昭和四七年三月二七日付書面で、被告倉田に対し、昭和四七年二月一八日に開催された原告組合の昭和四七年度通常総会において、被告倉田が賛成七八名、反対二〇名、無効票二〇名で除名処分とされた旨を通知したこと、これに対し、被告倉田は、原告組合を除名された後、原告組合の総会における除名手続が違法であるとして争い、監督官庁である新潟陸運局にも原告組合に関する事情を報告したりしているが、未納の組合費については、依然として、自己の主張の正当性に固執して、全くその支払いをなさずにいること、

そして、被告倉田は、原告組合を事実上退会した後である昭和五三年三月ごろ、同志と語らって、原告組合と趣旨を同じくする訴外組合を設立し(同月一二日設立登記をなした)、その代表者となり現在に至っていること、

(4)  原告組合が昭和四七年二月一八日に開催した定時総会において、緊急動議により被告倉田に対する除名の決議がなされ、右決議は、投票総数一一八のうち、賛成七八、反対二〇、無効二〇、によってなされたこと、しかし、右決議は、中小企業等協同組合法第五三条に定める「三分の二以上の多数」による議決に該当しないということができる。そうすると、被告倉田に対する除名は成立していないという疑問があること、そして、右議決は、同法第一九条第二項や原告組合の定款第一三条にあるように、組合除名の場合、総会の会日の一〇日前までに、除名について通知し、かつ、総会で本人に弁明の機会を与えるものとされているのに、右一〇日前までの通知がなされず、しかも総会の席上においては、被告倉田の発言・弁明を故意に野次のなかで聴取不能にするという状態のなかで、実質的に弁明の機会も奪い、被告倉田が抗議退席した後に「除名決議」がなされたものであり、この点からも右決議の効力には問題があること、

以上の事実を認めることができる。

(二)  右に認定した事実によると、たしかに、原告組合の運営に関して、被告倉田は、中心的人物として、積極的な批判を行なったことが認められ、それが嵩じて、昭和四五年二月に開催された原告組合の総会で正規に議決された組合費の値上による各構成員の負担についても、それに反対であるとして、その時以後、全くその費用を納付しない状況が続き、その結果、原告組合における定時総会において、緊急動議に基づき除名の決議がなされたが、それに対応して、被告倉田は、自己の主張する組合費の納入について、供託等の法的手段は全くとっていないし、常に自己の主張の正当性のみを主張していること、その後約一年を経過した後被告倉田は、被告倉田の考え方に賛同する他の組合員らを誘って、原告組合とは別の訴外組合を設立して、自らその代表者となっていることが認められ、そのような被告倉田の言動からすると、本件においては、被告倉田は、原告組合を自然脱会したものと認めるのが相当である(この事情は、特に当裁判所の主宰する和解において、被告倉田は、自己の主張の正当性を強く主張し、仮に原告組合の被告倉田に対する除名決議が無効であるとして、同人が原告組合の構成員であることが法的に認められたとしても、そこで原告組合の構成員として活動することは全く考えられないこと、そして、被告倉田の主張する除名無効の効力を争う趣旨は、自己の表示灯の撤去を求める原告組合の主張に強く反対するため、原告組合に再度加入する意思もなく、単に感情的になって、除名の効力の無効をも主張しているとしか考えられない状況下にあるといえること)。

(三)  そうだとすると、本件において、被告倉田は、原告組合を自然退会しその構成員ではないと認めるのが相当である。

五次に原告組合が本件(一)(二)の各表示灯を各構成員に設置させるようになった経緯について検討する。

(一)  〈証拠〉によると、次の事実を認めることができる。

(1)  タクシーの屋上に設置される屋上灯は、もともとは、昭和三八年ころ、当時の世相を反映していわゆるタクシー強盗事件が頻発したため、当時のタクシー業界を指導監督する立場にあった陸運事務所の行政指導により、右の防犯を主たる目的として、非常時の緊急連絡用の非常灯として設置されるようになったものであること(現在でも非常灯としての効用はあること)、

従って、それまでの原告組合の前身である個人タクシー協会の当時は、本件(一)の表示灯とは、全く別の表示灯を、それも各人が自己の好みに合わせて、監督官庁の行政指導に従って、いわゆる非常灯として設置(種類としては、二、三種類位であったこと)しており、これに対して、団体としての特別の規制は設けていなかったこと、

(2)  個人タクシーは、自己の営業用の車を保有して、個人としてタクシーの事業を行うことができるが、個人としての営業には、不便がつきまとうことから、各地で、その各県内において単位の協同組合が設立され、原告組合も、それに従って、前認定のとおり設立されたものであること、そして、昭和四〇年ころには、当時、個人タクシー営業について、各県の単位協同組合を全国的に組織作りをしようとする動きがあり、東京には、全国個人タクシー連合会(いわゆる全個連)があり、同年二月ころ、全個連は、新潟の個人タクシー協会等に全国組織への加入を呼びかけていたこと、

そこで、右全個連の呼びかけに対応して、原告組合の前身である個人タクシー協会は、昭和四三年ころから、加入の是非について討議をなし、結局昭和四四年三月一三日開催の定例総会において、新潟の個人タクシー協会は全個連に加入することを決定し、同月一八日、その加入の決議文を公表したこと、

しかし、被告倉田を含めて、三名位の会員は全個連への加入について反対の意向を表明していたこと、

(3)  本件(一)(二)の各表示灯と外形上同種の表示灯は、昭和四七年八月ころ、当時の訴外東京都個人タクシー協同組合(以下「東京個人タクシー組合」という)の代表者であった訴外若月勇によって、「輸速器具その部品および附属品」として商標登録願が特許庁になされ、昭和四九年八月二三日出願公告の後、それは、昭和五〇年八月八日付で商標として登録(登録番号第一一八七一七号)されたこと、

そして、右登録は、昭和五三年一〇月二〇日に訴外若月勇から、当時の東京都個人タクシー組合の代表者であった訴外池田幸一に譲渡され同年一〇月二七日新聞に公告されたこと、そして、右の商標権は、昭和五八年一二月一三日付で、登録権利者として、訴外東京都個人タクシー協同組合として、昭和五九年二月二七日付で特許庁に登録がなされたこと、

(4)  本件(二)の表示灯(同種の表示灯は、被告佐野、同坂井が使用している)は、本件(一)の表示灯と類似していると認めることができ、その全国的な使用状況としては、大阪地区の都市の構造上、高架線の下の高さが低いため、車の屋上に設置する本件(二)の表示灯の高さを制限するため、特に大阪地区において、使用されているものであること、

(5)  個人タクシー協会における昭和四四年三月一三日の定例総会には、右協会から当時の全個連の代表者であった訴外若月勇に特に出席を要請していたこと、右の席上で、訴外若月勇は、全個連の組織の説明等を行い、その際、各自の自動車の屋上に設置する防犯灯については、全個連に加入することにより、全個連のシンボルマークとして定めてある本件(一)の表示灯と同種の表示灯の設置を求められ、各人はそれを了承したこと、そのため、当時、個人タクシー協会として、新潟市内の業者に、本件(一)の表示灯とは異なる表示灯の発注を行っていたのを中止することとし、そのためのいわゆるキャンセル料を右の業者に支払った経緯があったこと、

そして、その後は個人タクシー協会の会員は本件(一)の表示灯と同種の表示灯を設置し(ただし、その費用等は各自の負担としたこと)、それが、原告組合においても継承されてきたこと、

(6)  原告組合の事業区域は新潟市とその近郊の区域であり、その組合員は、現在では、全員が各自の自動車の屋上に本件(一)の表示灯と同種の表示灯を設置して、毎日の営業活動を行っていること、

(二)  右に認定の事実によると、本件(一)の表示灯は、原告組合の設立以前から設置していた原告組合の構成員についても、個人タクシー協会が、全個連に加入するに際して、強制的に設置を義務づけられたものであり、原告組合設立後の構成員は、本件(一)の表示灯の使用について、設置しないとする選択の自由はなく、各構成員は、本件(一)の表示灯を、原告組合のマークとして、原告組合のシンボルとして設置し営業を続けてきたものであるということができる。

六そこで、まず、原告組合が主位的に主張する被告近藤、同近藤福治、同青木、同橘、同阿部の各被告(以下「被告近藤外四名の被告ら」ということもある)に対し、右各被告らが原告組合を脱退したことにより、原告組合の運営規約第八条に基づき、右各被告がそれぞれの車輛に設置してある本件(一)の表示灯と同種の表示灯の取りはずしを求めているので判断する。

(一)  〈証拠〉によると、次の事実を認めることができる。

(1)  原告組合は、中小企業等協同組合法に基づき、昭和四五年一月八日に設立された法人であり、その目的とするところは、定款によると「組合員の相互扶助の精神に基づき、組合員のために必要な共同事業を行い、もって、組合員の自主的な経済活動を促進し、かつ、その経済的地位の向上を図ることを目的とする」と規定されている団体であること、

(2)  原告組合は、昭和五〇年二月二五日から発効した運営規約により、本件(一)の表示灯を、原告組合の組合員であることを示すために設置することと、その他チケットの取扱いを示すステッカーの貼付などを義務付けており、それらの表示灯等は、原告組合を脱退したときには取りはずすこととされていること、

すなわち、原告組合の運営規約の規定第八条には、定款の第六条により、「必要事項は規約で定める」とされたことにより、「原告組合の組合員は、組合員たることを証する表示をする」こととされ、それは、具体的には、各自の自動車の屋上に設置する表示灯および車体に貼付する原告組合の表示のあるステッカーの類を指すものであること、

そして、それらの表示灯やステッカーの類は、その組合員が、「原告組合を脱退したときには、その時限をもって取り外し」または「返還すべきものは返還しなければならない」と定めてあること、

(3)  原告組合自体は、いわゆる個人タクシーとしての旅客運送行為は行なわないが、その構成員各人が各自旅客運送行為を行い、それらが原告組合に加入して団体を形成していること、さらに原告組合は、その前身であるタクシー協会の時代に全国的規模で組織されている全個連に加入し、本件(一)(二)の各表示灯と同種または類似の表示灯は、その全国的規模での個人タクシーの連合体の表示と認められてきたものであること、

(4)  原告組合は、その構成員に対し、原告組合の設立後である昭和四五年一月八日以降、新潟市内およびその近郊において、原告組合の構成員であり、その標章として、本件(一)および(二)の表示灯を、各個人タクシーの営業を行うため各自の車輛に各自の負担の費用をもって設置して走行し、各営業を続けるよう指示してきたこと、

以上の各事実を認めることができる。

(二)  右に認定の事実によると、たしかに原告組合の運営規約第八条には、その主張する趣旨の規定があること、そして被告近藤ほか四名の被告らは原告組合を脱退していることは、右被告らの認めるところである。

そして、本件(一)の表示灯が、原告組合の運営規約第八条で規定する「組合員たるを証する……表示」に該当するものであると認められ、それと同種の表示灯を被告近藤ほか四名の被告らが、各自の車輛の屋上に設置していることは、右各被告の認めるところである。

そうすると、被告近藤ほか四名の各被告らが設置している各表示灯が、原告組合の所有に属するものであるならば、その返還を求め、もしくは、その取りはずしを求めることは肯定できるけれども、右各表示灯は、各被告が各自の費用で設置したものであり、しかも原告組合の運営規約は、原告組合内部において、構成員に対する私的なしかも自発的な内部規律でしかないのであるから、右規定があることから、直ちに、原告組合として、同組合を脱退した被告らに対して、各自が自己の費用で設置してある各表示灯の使用の禁止とその取りはずしを求めることはできないものというべきである。

(三)  そうだとすると、原告組合が、右組合を脱退した被告近藤ほか四名の各被告らに対して、原告組合の運営規約に基づく右被告らの本件(一)の表示灯と同種の表示灯の取りはずしを求める請求はいずれも理由がないことに帰する。

七そこで、次に原告組合が主張する予備的請求として、

原告組合は、本件(一)の表示灯は、原告組合の構成員のシンボルとして、内部規律で各構成員に設置を義務付けているものであり、これは、原告組合の構成員の営業であることを示す標章または表示であるとして、原告組合の構成員でない被告らが各自、本件(一)の表示灯と同一または類似の表示灯を設置して営業をなすことは、原告組合の構成員の営業活動と混同を生ぜしめる行為にあたるとして、不正競争防止法(以下単に「法」ともいう)一条一項二号により、被告らの行為の禁止と、その妨害除去を求めるというのである。

そこで検討する。

(一)  ところで、法一条一項二号の趣旨は、周知営業表示と同一または類似の表示を使用した結果、営業の主体について混同を惹き起こすおそれのある場合に、その行為を規制することを目的としているものである。

そして、営業表示を媒体として、他人が企業の努力により結晶させた信用名声を他人の犠牲において勝手に使用し、周知表示により得られる取引上の優越的な地位を不当に横取りし、営業主体の混同を惹起し、もって、公正な自由競争秩序を破壊する行為を禁圧するものである。

そこで、法一条一項二号の適用については、①周知の営業表示があること、②これと類似する表示の使用があること、その結果、③両営業表示の出所である主体に関し、具体的な混同の危険が存すること、そして更に④それによって請求者の営業上の利益が侵害されるおそれのあることが必要とされるといわれている。

(二)  原告組合は、本件(一)の表示灯については、原告組合が加入している中央の組織である全個連の代表者個人の商標として登録されていることが認められるが、本件においては、右の登録された商標権による保護を求めるものではなく、本件(一)(二)の各表示灯は、法一条一項二号で保護の対象としている自他サービスの識別標識であるサービスマークとして営業表示をしているとして、それにより同法一条一項二号による救済を求めているものである。

(三)  まず、営業表示の主体等について検討する。

(1)  ところで、原告組合は、組合自体として、いわゆる営業を行うものではない。本件における保護の対象として、不正競争防止法による救済を求めるのは、原告組合の構成員の各自の営業である。すなわち、街中や駐車場で客の求めに応じて乗車させる営業用自動車(いわゆるタクシー)を保有して、個人で営業を行っており(いわゆるタクシー営業)、それらの各営業は、同法が保護しようとする営業にあたることは明らかである。

そして、原告組合の各構成員のタクシー営業は、いわゆるサービス業である。

(2)  そうすると、原告組合は、個人でタクシー営業を行う構成員によって、中小企業等協同組合法によって設立された法人であり、同法の目的とする「協同して事業を行うために必要な組織」として作用することからすると、各構成員の利益保護のため、各構成員を代表して、本件においては不正競争防止法の保護を受けうる営業主体と解するのを相当とする。

(3)  原告組合は、本件(一)の表示灯は、いわゆる標章であり、それは、営業の主体として利用する場合には、不正競争防止法一条一項二号にいう原告組合の営業用の標章であると主張するが、前示認定の各事実によると、本件(一)の表示灯は法一条一項二号にいう原告組合の営業用の標章と認めることができ、更に、原告組合の各構成員らを含めた各自の営業内容からいうと、右の標章は、講学上のいわゆるサービスマークと認めるのが相当である。

そこで、更に付言するとサービスマークは、わが国の法律上承認されている用語ではなく、一般に、経済社会において、他人の提供するサービスから識別されるべき自己のサービスの同一性を表示する標識であると解されている。

そして、右にいうサービスとは、本件においては、個人タクシーとして、旅客の運送などの役務をいい、それは無形物であるが、商品と同様に取引の対象となるということができる。

しかし、わが国の現段階においてはいわゆるサービスマークの登録制度を持っていない。しかしながら、問題となるサービスマークが法一条一項二号の要件を充足する場合には、同条によって、当然保護の対象となるものというべきであるといわれている。当裁判所も、右の見解に左袒する。

(三)  そこで、本件においては、まず、被告らが、現に使用している各表示灯が、原告組合の主張する本件(一)の表示灯と同一または類似の表示灯であることは、各被告らの明らかに争わないところである。

(四)  ついで、本件(一)の表示灯の周知性について検討する。

(1) 原告組合と本件(一)の表示灯との関係については、前示五で認定のとおりであり、更に、前記認定の事実によると、原告組合の主張する本件(一)の表示灯は、原告組合の前身であるタクシー協会の時代に個人タクシーの全国的組織体である全個連に昭和四四年三月に加入し、それによって、タクシー協会とそれに続く原告組合の構成員全員が、その構成員であるかぎり一律に同種の表示灯(本件(二)の表示灯も含まれる)を設置するように義務づけられ、構成員全員は、本件(一)の表示灯と同一または類似の表示灯(本件(二)の表示灯も含む)を各自の車輛の屋上に設置して、個人タクシーの営業を行なってきたものであることが認められる。

(2)  〈証拠〉によると、被告倉田らが、原告組合を脱退し、それによる原告組合と被告らとの間で、本件(一)(二)の各表示灯の使用に関して、昭和四八年六月一六日付で地元である新潟市で発行された新聞に、その趣旨の記事が掲載されたことが認められる。

(3)  弁論の全趣旨によると、いわゆる個人タクシーを含めタクシー業界においては、現在においては、各車輛の屋上に非常灯として、各社の社名を表示した表示灯を設置してあり、本件(一)(二)の表示灯についても、「個人」と表示されてあることからすると、各タクシーを利用する顧客としては、本件(一)(二)の表示灯のように「個人」と表示してあるマークを設置して、タクシー営業を行っている車輛は、個人タクシーであり、その同一または類似の表示が一個だけでなく数多く存在することからすると、個人タクシーの集団として営業を行なっているものと認識して利用しているものであること。

(4)  そうすると、本件においては、本件(一)の表示灯と同一または類似の表示灯を設置して、タクシー営業を行なっている車輛は、新潟市およびその近郊においては、個人タクシーであり、原告組合の構成員の車であろうと認識し、それによって、本件(一)の表示灯は、広く周知性を有しているというべきである。

(五)  原告組合と、被告らの営業主体として、具体的な混同の危険があるかについて検討する。

(1)  〈証拠〉によると、請求の原因(一)(3)の事実を認めることができ、更に、原告組合の構成員は、各自のタクシー営業において、新潟市内の金融機関と契約して、原告組合独自のタクシーチケットや、各カード会社、全個連等で発行しているタクシーチケットの換金の取り扱いをしていることを認めることができ、被告らは、原告組合から脱退したことにより、原告組合の構成員の利用するチケット、カード等の利用は認められないこと、

そのため、被告らにおいて、個人タクシーとしてのチケットの利用を求められた場合には、そのチケットによる換金等の手続は、原告組合の構成員を通じて行っているものであること、

(2)  そうすると、原告組合主張の本件(一)の表示灯と、被告らが現に使用している本件(一)(二)の各表示灯と同種の表示灯は、個人タクシーとして表示され、その営業の内容において、取り扱うチケット類の相違等により、一般人としては、混同の危険が存すると認めるのが相当である。

file_5.jpgeawemal(六)  そうすると、原告組合が、各被告に対し、法一条一項二号に基づき、各被告が各自の車輛の屋上に設置して、個人タクシーとして営業を行っている行為は、原告組合に対する営業上の利益を害するおそれがあるとして各自の表示灯の使用の差し止めを求めることができ、右差止めによる使用の禁止に応じない場合には、更に、その取りはずしを求めることができるということとなり、被告らは、原告組合に対して、各自の表示灯の使用禁止とその取りはずす義務があるものということができる。

(七)  もっとも右の認定に対し、

(1)  被告らは、被告らが設置している表示灯は、街で一般に販売されており、被告各自が自己の費用で購入して設置しているのであり、これに対して、原告組合から抗議を受けるいわれはない旨主張するが、自己負担によるものであってもその表示が不正競争防止法の保護の対象であり、同法によって保護される者から、その使用の差し止めを求められ、その理由があるときには、同法によって差し止めの義務があるものといわなければならない。

(2)  また、被告らは、

「協同組合である原告組合は、旅客運送事業を営むものではない。この旅客運送事業は個人タクシーの営業者である各運転手個人に個別に免許が与えられるものである。したがって、被告らが本件屋上灯をつけて旅客運送事業をおこなってもこれによって原告組合の旅客運送事業を阻害したり「混同」したりすることはない。原告組合と被告らの営む事業はそもそも次元の異なる事業であり、原告組合に対する構成員個人が提訴したなら格別、原告組合による本件提訴は失当である。」

と主張するが、前記認定のとおり、原告組合結成の経緯、チケット取扱いについての原告組合の表示などからすると、原告組合がその構成員らを代表して、本件に関し、利害を有し、不正競争防止法による保護を受ける対象となることができると解すべきであり、これと見解を異にする被告らの主張は採用できない。

(3)  被告らは、

「仮に不正競争防止法の問題になるとしても、同法二条一項四号にあるように、本件屋上灯の表示を被告らは「広く認識せらるる以前よりこれと同一若しくは類似の表示を善意で使用する者」として、不正競争防止法一条の差止請求等から免れるものである。すなわち、被告らのうち、被告倉田、同大小治、同近藤、同佐野の四名はもともと原告組合が設立された昭和四五年一月よりも以前の昭和四四年から本件屋上灯を使用しており、その他の被告らも一〇数年前からの使用であり、到底「広く認識せらるる表示」にはなっていなかった。むしろ先使用権のある程の問題であって、被告らに対し原告組合がこの屋上灯の使用をさしとめる権利はない。」

と主張するが、被告らのうち被告倉田、同大小治、同近藤、同佐野らは原告組合の前身である個人タクシー協会の時からの構成員であり、それが原告組合の設立にも関与して、本件(一)(二)表示灯と同一または類似の表示灯を使用してきたものであり、それが、原告組合の運営方針に反対して脱退したものであり、本件(一)の表示灯が原告組合の標章であるとすると、右被告らについては、不正競争防止法二条一項四号にいう先使用権を主張しうる立場にはないと解するのが相当である。

(4)  また、被告らは、

「現実にも原告組合の営業との「混同」はありえない。顧客は、タクシーを求めるとき、原告組合に所属するタクシーか被告らが設立した訴外組合に所属するタクシーか等と区別して選択して求めるものではないから「混同」はありえない。法人のタクシーか個人のタクシーかの区別さえ問題にしないものがほとんどであり、ましてや個人タクシーの類別を選択していることはないのが実情であることは周知のところである。またそのような「選択」の問題よりも、顧客としては即時に間に合うタクシーがその現場にいるかどうかの「即時利便性」が問題なのであって、原告組合に対し「営業上の利益」を侵害することもないのであって、原告組合の請求は不正競争防止法第一条前段の要件すら欠くものである。」

と主張するが、他人の営業上の施設または活動との混同とは、周知営業表示と同一または類似する表示を媒体として、当該営業が周知営業表示主の営業であるかのように取引者または需要者間に混同を生じさせることをいい、取引者または需要者が周知営業表示の営業主体名を具体的に知っている必要はなく、原告組合の組合員と被告らが行う営業はタクシー営業であり全く同一であること、被告らが使用する営業表示は原告組合の営業表示と同一または極めて類似するものであることからすれば、被告らが本件(一)または(二)の表示灯をつけてタクシー営業をすることは、原告組合の営業上の施設及び活動と混同を生ぜしめる行為であるといわなければならず、被告らの右行為によって原告がその営業上の利益を害せられる虞があることは明らかである。

(5)  更に被告らは、

「本件屋上灯は原告組合の運営規約第八条のいう「組合員たるを証する一切の表示」ではない。被告らのいう前述のように原告組合の設立以前から使用しているものもいるのであって、排他的なマークではない。また、被告らはいずれも自由に市販されている本件屋上灯を新しく買って取りつけ使用してきたものであり、被告らの各所有するものであり、「返還」を求められる合理的理由もない。被告らは一〇数年も使用を継続してきているが、原告組合を脱退してからも一〇年前後も使用してきている。いまになって嫌がらせと締めつけのためにその使用さしとめを要求するのは権利の濫用でもある。」

と主張する。

しかしながら、前示認定のとおり、本件屋上灯は、原告組合の運営規約で規定している「組合員たるを証する表示」と認めるのが相当であり、この標章は、不正競争防止法によって保護の対象とされるものである。それが、自由に市販されているおり、その設置は、各被告が自己の負担でなされているからといって、その性格が変るものということはできず、更に、本件において原告組合の主張が権利の濫用となる事情も認められない。従って、この点に関する被告らの主張は採用できない。

八以上の次第であるから、原告組合が、主位的に被告近藤ほか四名の被告らに対し、原告組合の運営規約に基づき、右各被告らの設置する本件(一)の表示灯と同種の表示灯の撤去を求める請求は理由がないことに帰するから、これを棄却することとし、予備的に、被告らに対し、不正競争防止法一条一項二号に基づき、被告らが設置する本件(一)(二)の表示灯と同一または類似の表示灯の使用を禁止して、その取り外しを求める請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九二条但書、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。なお、原告は、本判決に仮執行の宣言を求めているが、これを附するのは相当でないから、右申立は却下することとする。

(裁判官小野寺規夫 裁判官髙橋徹 裁判官山本剛史)

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